アデランス社の経緯

国内随一のかつらメーカーといえば、アデランス社。これはダントツの一位で、過去40年の日本のかつら市場を牽引してきた巨大な存在です。

最大手のかつらメーカー「アデランス」の創業は1968年9月。女性用かつらメーカーに勤めていた根本信男氏(現会長)が、それまであまり普及していなかった男性用かつらの潜在需要に目を付け、同僚2人とともにアフターケアも行う個人商店「アデランス」として、東京・新宿でスタートさせた。

アデランス社の創業時代、かつらという商品はとてもマイナーなものでした。それを男性の薄毛対策の商品として、新しいジャンルを確立したというのはものすごいイノベーションだったのです。

社名をつける際に根本氏は、海外事情に詳しい知人の大学教授に相談。すると「従来の『かぶる』ではなく、『つける』かつらという意味を込め、フランス語で『くっついていること(付着)』を意味する『Adherence(アデランス)』とするのはどうか」と提案された。同僚2人も気に入り、採用が決まった。

これまでにない、新しい価値の想像という意味で、当時のアデランス社はベンチャーの魁とも言える存在でした。日本では薄毛という症状が忌み嫌われ、それに対する商品という新しいジャンルを切り開いたのです。

創業直後から広告宣伝を重視。テレビCMなどを大きく展開して顧客を開拓するスタイルを取ってきた。70年代、子どもが父親に「パパ、アデランスにして良かったね」と話しかけるテレビCMは、アデランスの知名度を飛躍的に高めるのに貢献した。

特に素晴らしい点は、かつらという超々ニッチな商品を、一般的なテレビCMに登場させ、世間一般に知らしめたことです。当時のテレビというのは今の比ではない巨大な存在でした。インターネットが登場するはるか前の時代です。テレビで有名になるというのは、一般世間で有名になるというのと同じことでした。アデランス社には、かつらが一般の人に知る商品になる、という優れた先見の明があったのです。これがアデランス社が急成長を実現した要因の一つです。

しかし、アデランス社の大きな転機が間もなく訪れます。高価なオーダーメードかつら、フルサービスというビジネスモデルが崩壊し始めたのです。かつらはあまりに高額になりました。1つ数十万円というのは、コンプレックス産業という特殊事情を考慮しても、なお高すぎました。この間隙をぬうように、安価な商品を提供する新しいカツラのビジネスモデルが広まったのです。広告宣伝や駅前店舗など高い経費をかけたアデランス社は、デフレに対応することが難しかったのです。